[資料紹介]『だれのための図書館』
今回は、管理人が学生のころに出会い、最近読み直している本を紹介したい。
だれのための図書館 ホイットニー・ノース・シーモアJr.
エリザベス・N.レイン著 京藤松子訳
東京 日本図書館協会 1982.12
ISBN4-8204-8209-2
この本は、1979年にWhitney North Seymour Jr及びElizabeth N.Layneによって書かれた"For the people : fighting for public libraries"の日本語訳である。ちなみにタイトルを直訳すると「住民のために--公共図書館のために闘うということ」となる。
管理人が思うに、この本は20年以上前のアメリカで出版されたにもかかわらず、2004年になって東京で読み直してみてもその輝きを少しも失ってはいない。なぜなのかをこれから書いていく。まず、構成について紹介しよう。
序文
感謝の言葉
はじめに
第1章 小史
第2章 読書の喜びを知る
第3章 多年齢層の学生たち
第4章 仕事の創造と求職者への援助
第5章 貧しい人々に手を差し伸べる
第6章 権利と自由を守る
第7章 幸福の追求
第8章 高齢者のための新しい世界
第9章 公共図書館のための闘い
付録
訳者あとがき
著者の一人シーモアJr氏は、弁護士業の傍らニューヨーク公共図書館(New York Public Library)に理事として関わっていたが、1976年に経済状態の悪化の影響で全米の公共図書館が危機に陥った際、全米の公共図書館市民の会を結束して「公共図書館を救うための全米市民緊急委員会」(以下緊急委員会と言う)を設立させた。もう一人のレイン氏は緊急委員会の調査部長である(いずれも当時)。
1976年に、財政難のためにニューヨーク公共図書館が地域分館の整理を発表したことがこの本の執筆のきっかけなのだと言う。執筆者二人は、非常な困難な問題に直面しているアメリカの公共図書館のための闘いに取り組む人たちの「行動のための手引書」としてこの本を執筆したのだという。そして、この本では公共図書館が国民の生活に与える重要な役割を理解してもらうということが意図されている。ちなみに、ニューヨーク公共図書館地域分館の整理計画は、力強い住民運動により中止されたとのことである。
個人の力を伸ばし、コミュニティを活性化させるためには教育が重要であることや、その基礎となるものが自己学習であること、そして、その中核をなすものが図書館なのだとということがこの本には記されている。公共図書館は「市民の大学」であり、市民の生活、自由、幸福の追求のために、決して譲れない権利の実現を援助するための地域社会の主要な情報源なのだと書かれている。
公共図書館は市民の子ども時代から墓場まで寄り添うものであり、そして、公共図書館のドアは貧富、人種、その他いかなる条件に関わらずすべての人々に無料で開かれているのだと書かれている。図書館へのアクセスに支障がある人には必要な援助を行うべきことも書かれている。たとえば、子どもたちに読書の喜びを知ってもらう児童サービスの紹介の章では、「極貧地区」へでも、子どもたちのいるところへ図書館側が出かけていってサービスしている姿が紹介されている。大学入学のための資料・情報を提供することなどを含めて、学ぼうとしている学生への支援を行っている図書館の姿が記されている。履歴書の書き方の本、面接の受け方の本等をも含め、職を探す人のための情報提供を行っている図書館の姿も記されている。「障害者」、老人、在住外国人、貧困者等、「不利な条件の人たち」がこの社会の中で生きていくために必要な情報の取得を援助する図書館サービスのことも描かれている。公共図書館の使命はすべての大衆にサービスすることであり、公共図書館への公平なアクセスをすべてのアメリカ人に平等に保障する仕組みを実現していくことがこの本では強調されている。
ところで、菅谷明子さんが岩波新書『未来をつくる図書館』で紹介したニューヨーク公共図書館の様々な先進的サービスが、ある意味で私たちにショックを与えてくれたことは確かである。ビジネス支援や医療情報、舞台芸術資料の収集・提供等、そこでは、私たちが目を見張るような図書館サービスが展開されている。また、ニューヨーク公共図書館は同市の他の図書館組織と共同して、英西両言語で一般市民に健康情報を提供するウェブサイト"New York Online Access to Health(NOAH)"を開設していることでも知られている。しかし、そのニューヨーク公共図書館が、かつて危機的状況に直面し、その際に市民が図書館を守る闘いに立ち上がったことはよく覚えておく必要があるだろう。「公共図書館のための闘い」に一番必須なものは市民の力であり、図書館関係者は市民から支持されるサービスを行っていくことが大切なのだということも、この本は語っている。
そして、ご存知のとおり、現在、東京の、そして日本の図書館は曲がり角を迎えている。そのような今、私たちはこの本から、いろいろなことを学び取っていく必要があるだろう。この本には私たちが汲み取っていくべき内容がいまだにたくさん残っている。生きていく私たちにとって、また市民社会にとって「情報」とは何なのか。図書館とは何なのか、図書館司書とは何をする人なのか、そして、その図書館をどのようにしていかなければならないのか。そのことを考えるために、今、日本の公共図書館のための闘いに取り組む人々の中で本書がもう一度広く読まれることを願ってやまない。
参考文献
ニューヨーク公共図書館 市民はどのようなサービスを受けているか
大島弘子著
静岡 大島弘子 1982.11
未来をつくる図書館 ニューヨークからの報告 菅谷明子著
東京 岩波書店 2003.9 (岩波新書 ; 新赤版 837)
ISBN4-00-430837-2
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高鷲忠美先生(八洲学園大学)のブログ『高鷲忠美の研究室便り』の中の記事「『浦安図書館を支える人びと』を読んで」で、上記の本『だれのための図書館』が紹介されています。そちらの記事もご参照ください。
http://blog.study.jp/ygutakawashi/archives/2005/04/post_8.html
投稿: 高橋隆一郎 | 2005.05.09 21:38