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2007.01.03

『有山たかし著作集』を紐解く

 忙しい日々の仕事。私たちはともすると目の前の仕事を片付けるこ
とに追われ、「道筋」を見失うということはないだろうか?正月休みの
ひと時、管理人は久しぶりに本を一冊手にとってみた。日々行ってい
る図書館間相互協力の仕事をしている時に再度出会った、身近な図
書館を水道の蛇口だと例える文言の源流を確認し、これからの仕事
の力の源としたかったからである。そして、その手に取った本とは『有
山〓』著作集(〓は山冠に松)である。書初めではないが、今年はこ
のことから書き起こしていきたい。少し「つれづれ」になってしまうかも
しれないが、ご容赦いただければ幸いである。

 まずは例によってこの本の書誌事項を確認しておこう。有山さんに
ついてはここで管理人がどうこう申し上げるまでもないだろう。日本図
書館協会の事務局長として活躍し、また、出身地である日野で
「市民の図書館」を創ることに努力され1969年永眠された方であ
る。この著作集は3巻組みになっており、「図書館の本質を論じたも
の、図書館協会や図書館運動に関するもの、読書と読書運動に関す
るもの」という3本の柱の下に彼の書かれたものがまとめられている。

  有山〓著作集 / 有山〓著 ; 石山洋 [ほか] 編. --
  東京 : 日本図書館協会, 1970   3冊 ; 20×19cm -- 1;2;3

 目的の「水道の蛇口」論の源流らしきものは、1巻の「市立図書館
の経営:市には図書館を、その図書館はこうあってほしい」(pp.20-
29)に書き込まれていた。ただ、これより前にも言われていたことかも
知れないので、もしご存知の方がいらしたらご教示いただければ幸
いである。これはもとは『市政』という雑誌に1964(昭和39)年(1月、
2月)に発表されていたものだとのことである。この論考は次の柱で成
り立っている。

   Ⅰ 1 すべての民衆は図書館サービスを受けるべきである
   2 国からの交付金の中には図書館費が算入されている
   3 図書館とは建物のことではない
  II 1 建物ひとつだけでは図書館は働かない
   2 図書館経営は素人ではできない
   3 図書館は社会保障機関である
   4 むすび

 そして、有山さんは例の「水道の蛇口」という比ゆを使って、図書
館がネットワークで仕事を進めていく姿を次のように語っている。少
し長くなるが引いてみたい。

   例えば、水道の蛇口は各戸に設けられている。それだから
   便利なのである。バケツを下げて市の中心部の水道局まで
   水をもらいに行くとしたら市民は黙っているだろうか。貯水池
   があって、そこから全市に配管され給水網ができているから、
   各戸では蛇口をひねりさえすれば水が出てくるのである。
   これと同じことが先進外国では図書館について実施されてい
   る。つまり、水道の場合には各戸に蛇口があるのだが、図書
   館の場合には容易に歩いていけるところに末端施設がある。
   これがいわば共同蛇口である。そこに行けばある程度の本
   がある。その本は数は多くないがその辺の市民の要求に合っ
   た本である。だからたいていの場合はそこで用が足りるので
   あるが、足りない時は、そこに具え付けられている図書目録
   によって欲しい本を見つけ出し…

 いかがだろうか。日野市立図書館が発足した当時、市民のそば
に図書館が出て行くという意図で移動図書館車からスタートし、分
館網を整備し、中央館を構築したという流れだったと聞くが、その
歴史の中にはこのようなものの考え方がしっかりと定まっていた
わけである。そして、それから40年以上たち、大学図書館に相互
協力担当として身を置く管理人にとってもこの「水道の蛇口」という
表現は少しも古さを感じない。自館で対応できない資料については、
大学図書館同士のやりとりや、国立国会図書館からの文献提供を
うけることだけでなく、地域資料については対象地域の地元にある
公共図書館などともやり取りをしながら仕事を進めている。また、現
在は「グローバル化」という言葉がますます重要なものとして扱われ
ており、インターネットがもはや必要不可欠の道具になっているが、
管理人の身の回りでも、欧州や北米、東アジア、オーストラリア、ア
フリカとのやり取りが必要になるケースが現れている。有山さん風
にいえば備え付けの図書目録というところを、今ではインターネットで
提供された全世界の図書館の目録となるわけである。有山さんの
活動された時代とは、「水源地」や「水系」の規模が比べ物にならないほど拡大しているのだ。

 有山さんが語ってくださった「水道の蛇口」は図書館ネットワークの
ことを語る上でとても大きな位置を占めており、今でも多くの方が「水
道の蛇口」という比ゆをお使いである。これからも図書館ネットワーク
は図書館に携わるものにとってますます重要になり続けるだろう。

 ところで、この著作集の別の巻を紐解いたら、市民にとっての読書
と図書館のかかわりについて面白い記述に出会った。また引いてみ
たい。

   だが図書館への需めは、読書したいという欲求だけから
   おこるとは限らない。他の色々な動機からおこることが多
   いのを、これまでの図書館は見逃していた。
   例えば、米作改良という動機、台所改善という動機、ラジ
   オを作りたいという動機、芝居をしたい等様々な動機が
   先ずあって、それを実現していくいろいろな方法の内の一
   つとして、図書資料を需めるということが生まれてくる。
   だがそうだからといって図書館が、やれ米作を改良しろ、
   ラジオを作れと叫んでもどうなるものではない。…
   従って公共図書館が本当に地域社会の大衆と結びつくた
   めには、図書館だけで働くことをせずに、その地域社会内
   にあるいろいろの機関や団体と結びついて、それらの機関
   や団体に先ず十分働いてもらって…その課題解決の一つ
   の方法として、図書館は資料提供という本来の仕事をする
   ということが必要である(3巻所収「地域における公共図書
   館の課題」より。原報『教育じほう』昭和32年10月号)

 米作や台所、ラジオや芝居、つまりは人が文化的に生きていくた
めの生業や趣味等のことを述べているのだろうと管理人は理解し
た。これは、管理人が考えるに、今の公共図書館の世界で「ビジ
ネス支援」など生業を支援していこうとする取り組みに一脈通じる
ものがあるのではないだろうか?そのほかにも、この本のあちこ
ちに当時の社会情勢に有山さんが真摯に関わった姿が記されて
おり、40年前の本であるとはいえ、現代の私たちにも参考になる
様々な考えが汲み取れるのではないだろうか。「図書館は何をす
るところか」、この本にはそのことを考えるための有用な視座が
含まれているのだと私は考えている。

 かつて、歴史の授業で、E・H・カーという人の『歴史とは何か』(岩
波新書)を引きながら、歴史とは、川の流れの中にいる観察者が、
同じ川のはるか先を流れ去ってしまった物事を観察し、自分が今
身を置いている場所に即して捉え返す営みなのだと教えてくださっ
た先生がいた。これは、図書館の歴史にとっても重要なことであろ
う。別の言葉で言えば「温故知新」ということになろう。図書館が曲
がり角から抜け出そうと一所懸命な今、抜け出すための知恵は、
すでにかつて先人たちが語っているかもしれない。今回、管理人
は『有山〓著作集』を紐解きながらそのような思いを新たにした。

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コメント

「水源地」すなわち図書館ネットワークの規模が国境を越えて巨大化している今、海外図書館に対しても関心を持ち続けていくことが重要になっていくと思われます。下記2点を雑誌に発表しましたので、もしよろしければご一読ください。

1. 「海外ILLへのお誘い(特集1 ドキュメント・デリバリー)」 高橋 隆一郎
『年報「神資研」』41(2006)
2.「海外ILL入門」 / 高橋隆一郎
『大学図書館問題研究会誌』第30号(2007.8)!  

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