Google検索




  • ウェブ全体から検索
    このサイトの中を検索

カウンター


  • (2004.10.26以来)

« 2008年4月 | トップページ | 2008年6月 »

2008.05.04

図書館は情報の町医者--静岡市立御幸町図書館に関する資料の紹介など

 私がよく視聴するテレビ番組のひとつに、NHKの『プロフェッショナル仕事の流儀』がある。他の畑の仕事をする人の姿を目にすることが自分の栄養にもなるからである。最近のプログラムの中で印象に残ったのは、2008年4月1日放送のウェブデザイナーの中村勇吾さんの回であった。印象に残ったのは何なのかというと、ウェブデザイナーとしての仕事内容、ということよりも、中村さんが独学で始めたウェブデザインがプロの領域に到達しているということである。

 よく、私たちは「学び」を重要視するが、この『プロフェッショナル』というプログラムに出てくる人々の印象に残る姿は、やはり「学び」であり、現実との真摯なかかわりである。中村さんの例のほかにも、農薬に頼らずにリンゴ作りを進めている農家木村秋則さんが、リンゴに害を及ぼす害虫を写真に撮って図書館でその生態を研究してこられたということがこの番組の別の回で紹介されていた。

 この社会で暮らし、生き抜いていく。そのためには私たちにも「学ぶ」ということが必要になってくる。「生涯学習」が重要視されている所以である。当サイトでも今までに生涯学習にかかわる話題を何回も取り上げてきているが、生涯学習を支える組織の一つである図書館に関わる者として、私たちは生涯学習の重要性を改めて肝に銘じるべきであろう。

 生涯学習の視点から図書館を考えようとするときに、私が興味深くとらえている図書館の一つに静岡市立御幸町図書館がある。今回はこの静岡市立御幸町図書館に関する雑誌記事を紹介したい。

 「無料貸本屋」から「情報の町医者」へ 豊田高広
 『人文会ニュース』102号(2007年12月) pp.17~21

 豊田さんは静岡市立御幸町図書館の館長であり、2007年3月に勁草書房から出版された『図書館はまちの真ん中―静岡市立御幸町図書館の挑戦』の著者のお一人である。ビジネス支援サービスと外国人住民への多言語サービスを柱として活動する同図書館にかかわる上で豊田さんが重要視していることは、図書館は情報の町医者なのだということである。すなわち、仕事や社会生活の中で情報ニーズが出てきたとき、図書館がしっかりとかかわっていけることが重要なのだということである。豊田さんが図書館を町医者に例えているくだりは大変興味深いので、恐縮であるが少し引用させていただきたい。

信頼のおける町医者(公共図書館)とは、その町の人々にとって、どんな病気(課題)、にかかったとしても、最初に受診してみようと思える存在である。とりあえずの処方箋(資料、情報)を提供してもらうと同時に、必要に応じて、より専門的な病院(都都道府県立図書館、国立国会図書館、大学図書館、専門情報機関、公的機関の相談窓口、社会教育講座等)や薬局(書店)を紹介してもらう。大病にかからないための健康法(メディア・リテラシー)のアドバイスもしてもらえる。往診(移動図書館などのアウトリーチ・サービス)も町医者独自の機能だろう。保健所(行政各部局)と協カして、寝たきりをなくす(情報による自立支援)まちづくりへの取組も考えられよう。

  そして情報の町医者としての図書館に必要とされるものとして豊田さんは筆者は「『地域の記憶』ともいうべき、設置自治体とその周辺の地域資料の集積」と「さまざまな専門の入門となり得るような『広く浅い』蔵書構成」の2つを挙げる。

  人々がこの社会で生き抜くために、資料や情報を扱う機関である図書館は何をしなければならないか。豊田さんのこの論考にはその答えの一端が書かれているのだと理解している。多くの方が手に取っていただければ幸いである。

バンクーバー図書館探訪報告

(この文章は、3年前2005年に管理人がカナダのヴァンクーヴァーを訪ねたときのものである。)

1 始めに

 私の身近なところで、大学と民間企業(玩具メーカー)とが協力でおもちゃや児童図書を有機的に扱った子どもの図書館を設立しようようというという動きがあるのだと聞いた。また、その話を耳にしてすぐのころに、カナダの図書館が児童サービスやおもちゃ図書館の面で活発な活動を行っていることを知人から教えられた。それらのことに啓発されて今回のバンクーバー行きを決めた。尚、バンクーバーはブリティッシュコロンビア州の中心都市で、人口55万人弱、市には20以上の異なる文化的・言語的背景を持つ人々が暮らす。

 カナダの児童図書館については、林宥子によるトロントの「少年少女の家」についての報告や、赤星隆子によるカナダ児童図書館の基本理念やその背景について論じられた文献などがある。例えば、後者では、次のようなことが取り上げられている。①カナダ図書館協会が発表したガイドラインで予算や資料、お話会、多文化活動、視聴覚資料、コンピュータ、運営方法や広報などが取り上げられていること ②このガイドラインがカナダの児童図書館を語る上で重要であり、などが取り上げられていること ③カナダの隣国である米国で、「あらゆる環境にいるすべての子どもたちの要求に対応しうる幅広い範囲の資料を、図書のみならず、玩具から、視聴覚資料、電子媒体にいたるあらゆる形態にわたって収集すること」などが重要視されていること。今回の旅は、それらに描かれていることを再確認させられた旅となった。

2 おもちゃ図書館のこと…Aldergrove Family Place

 この旅行の過程で、今回大学で考えられていることに近いのであろう図書館活動を行っている団体の情報を得た。Aldergrove Neighbourhood Services Societyという団体が行うAldergrove Family Placeという活動である。バンクーバー郊外のLangleyという町の地域の学校(Community School)のそばで活動を続けており、後述のバンクーバー公共図書館のウェブページによると下記のような活動を続けているのだという。大変興味深く感じた。

6歳までの子どもを持つ親御さんやその子どもたちに関わる方々のための非公式な訪問場所である。子どもたちにゲームを提供したり、一緒に活動したり、子どもたちのために玩具や本のある図書館を開いたり、情報提供や紹介サービスをしたり、親御さんのための教育や支援を行ったり、その場所まで来られない人のためにアクセス保障のサービスをしたりしている。また、ボランティアの募集もしている。

3 バンクーバー公共図書館(中央館)

 バンクーバー市内にあるこの図書館は、今年が移設・開館から10年の節目なのだそうである。すべての人へのアクセスを重要視すること、すべての人の暮らしを豊かにすることTo enrich all, to reach allに重きを置いて活動をしているのだそうであり、訪問者である私が一見しただけでも目を見張るような図書館サービスを行っている。

 外見はローマのコロッセオのような建物であり、”Vancouver Public Library”と記された扉を開けると立派なプロムナードが現れたのには驚いた。ここでは図書館主催の催し物が行われることも多いそうで、私が訪問したときには、アジア系の方々の文化遺産に関心を持とうという趣旨で行われている”ExplorAsian”という取り組みの一環として、日系・韓国系・中国系等の団体の人たちが展示・プレゼンテーション等を行っていた。

 次に目を引いたのは、利用者向け刷り物—案内—の多様なことである。OPACの引き方から近くの分館への案内、テーマごとの文献案内から、文献の探し方。必要に応じて英語以外の言語でも発行されている。一つ一つの案内書は大変わかりやすくできており、それらをうまく利用して利用者への案内を行っている様子が理解できた。

 2003年時点の蔵書冊数300万冊弱、同年の貸出冊数総計900万冊弱、訪問者総計600万人以上、登録率65パーセント。また、同年の典型的な一日を取り出しての貸出冊数33,000冊以上、訪問者23,000人以上、これが中央館を含む22館で行われた図書館活動の一面である。

 この図書館の活動内容はとても盛りだくさんであり、すぐには語りきれないので、ぱっと目に付いた印象だけをメモに残すことにする。

A 児童サービス

 中央館児童室には、児童書や大人向けの子どもに関する本、参考図書、その他に展示図書、大活字本、障害に関する本、フランス語で書かれたこれらの本、第2言語としての英語学習(ELS)に関する本などが置いてある。

 図書以外に、玩具も重要な道具となっている。おもちゃ図書館と異なり、おもちゃ自体を貸すわけではないが、子どもたちの催し物などの際に効果的に用いられている。読み聞かせについては、英語については児童担当、英語以外での読み聞かせは後述する多文化サービス担当が行っているとのことである。

 また、ウェブ上でも文献案内など様々なコンテンツが公開されている。子どもたちの使うコンピュータには有害サイトを見させないためのフィルタープログラムがセットされているが、そのコンピュータを子どもたちに強制するのではなく、子どもたちに選ばせているのだそうである。学校関係者と協力して、児童たちに図書館のコンピュータルームで図書館の情報へのアクセス方法を教える取り組みも行われている。

 学齢期の児童には、レファレンスの延長として、生徒たちの宿題を支援する取り組みhomework help--出された宿題に対し、どのような調べ方があるのかを教えることなど--が行われている。

 他機関と共同で、学齢期前の子どもを持つ親への情報提供のパンフレットを12言語で作成している。

B 多文化サービスなど

 この図書館では、英語以外の言語を用いる人々蔵書構築などを通じて積極的に対応が行われている。

 蔵書についていえば、バンクーバーで用いられている言語に対応する資料収集が行われている。その中には、英語以外の児童図書も含まれている。21言語のコレクションがあり、現在は14言語のものが更新中である。収集に関しては、センサス等の統計書や、貸出データ等を参考にしているとのことである。

 また、他組織と共同で催しを行うこともあり、United Chinese Community Enrichment Services Society(中僑互助会、在バンクーバー中国人団体)と共同で就業指導についての講習会なども行われている。また、”Immigrant Service Society of British Columbia Training Insitut”が英語と利用者の第一言語で行う職業カウンセリングについてのチラシも図書館で配布されていた。

 広報についても、貸出カードの作り方等の広報用パンフレットはそれぞれの言語で発行されている。

 新聞コーナーでは日本の『読売新聞』を含めて全世界からも新聞が集められていて、また、配布用に各国語のメディアを置くコーナーもあった。

4 ブリティッシュコロンビア大学図書館

 ブリティッシュコロンビア大学図書館へは、市内から30分位バスに揺られて行った。回りを海に囲まれた丘の上に立っており、大変眺めの良いところである。キャンパスの広さにはただただ圧倒されるばかりであった。

 図書館は石造りの本館と、ガラス張りのKoerner図書館の2館を訪ねた。キャンパスにはこの2館や主題専門図書館を含め、全部で20以上の図書館が設置されている。統計によると2004年時点での蔵書は500万冊弱、2004年に加わった冊数10万弱、それを司書や支援業務者などを含め総勢300名以上で支えている。使命宣言(mission statement)のなかで、図書館は大学の指名を遂行する学生や教員・職員に対する能動的かつ総合的なパートナーであると謳われている。

 利用環境(資料・座席・端末・無線LANなど等)も大変申し分なかった。検索端末は学内利用者が使うもの…利用者IDとパスワードを入力…と学外者も利用できるもの…ログインは不要…があり、私もこの図書館の用意している検索メニュー…OPACや、主題ごとに分類されたデータベース等…を効果的に用いることができた。この図書館でも、利用者向けパンフレットは有効に用いられていた。

 最後に、貴重書・特殊コレクション・大学資料室を特筆しておく。私が検索していたら、ブリティッシュコロンビア大学で30年前に行われたおもちゃ図書館のプロジェクトに関するパンフレット”The tale of the toy library”がこの大学資料室にあることがわかり、閲覧させていただくことができた。

 ここまで書き進めて、ふと、日本での身の回りでの経験が頭をよぎった。現在、大学図書館の世界では機関レポジトリ等大学での研究成果の収集・発信の重要性が強調されている。しかし、普段の業務の中で、例えば学外から自らの大学の出版物に対するリクエストがあったときにもすぐには応えられずに研究室等に問い合わせることが良くある。なおかつ、このような情報は、集めるべき時を逸すると致命傷になるということや、長年の積み重ねがものを言うということも十分承知している。今回、ブリティッシュコロンビア大学図書館で30年前の大学プロジェクト資料にすんなりとアクセスできたことで、私は、この図書館の司書の皆さんの底力を再確認させていただいた。

5 最後に

 この文を書き進める自分の頭の中に、今回出会った図書館の姿がいくつも重ね合わさった。例えば、「すべての人へのアクセスを重要視すること、すべての人の暮らしを豊かにすること」を謳うバンクーバー公共図書館。また例えば、「図書館は大学の使命を遂行する学生や教員・職員に対する能動的かつ総合的なパートナーである」と謳うブリティッシュコロンビア大学図書館。そして、最初に出会った、児童やその親にと一緒に様々な活動を続ける団体の方々を含めて、これらに関係する方々が、利用者の活動や生活、人生と真摯に向き合う姿を確認させていただいた。

 翻って、日本では、今後図書館の力がますます問われていくであろうことが予想される。社会がますます変わっていき、それにつれて情報(資料)と、それを用いる人たちを結んでいく司書の役割が重要なものになるのだろうと考えているところである。但し、図書館1館だけでできることは限られていることも承知している。

これから重要なことは、社会の中で何が重要なのかを図書館側で見抜くこと、そして図書館の限られた資源の中で何ができるのか、1館だけでは不可能ならば、誰と手を組めばできるのか—例えばバンクーバー公共図書館が関連機関と一緒になって外国人向け催しを行っているように—を見抜くことなのだろう。そのことを再確認することができた、今回の旅であったと考えている。

参考文献
赤星隆子「児童図書館の基準と指針 アメリカ、イギリス、カナダにおける児童奉仕の基本理念とその背景」
  『論集・図書館情報学研究の歩み』第17集(1997),pp.7-43
桂宥子『理想の児童図書館を求めて トロント「少年少女の家」』
東京 中央公論社 1997(中公新書)
"Aldergrove Family Place"
http://www2.vpl.vancouver.bc.ca/DBs/RedBook/orgPgs/2/2297.html
“UBC Library 2003-2004” [University of British Columbia Library], 2004
“Vancouver Public Library annual report” Vancouver Public Library, 2004

司書が平和を願うということ(4) 甦った「平和百人一首」のこと

 昨日5月3日は憲法記念日でした。昭和22年の5月3日に施行されて以来60年の歳月を経て、昨日も多くの憲法にかかわる催しが行われました。管理人も、「稲田善樹原画展百のうた千の想い:甦る平和百人一首」にお誘いをいただいたので、新宿の紀伊国屋書店まで足を運んでみました。出版されたばかりの下記の本の原画展ということで、今日はそのことについてお話ししてみたいと思います。

   百のうた千の想い:甦る平和百人一首英訳付
   大竹桂子編・稲田善樹絵
   川崎 てらいんく 2008/05
   ISBN:9784862610256

  平和百人一首、皆さんはご存じでしたでしょうか。昭和23年に新憲法制定事業として平和の鐘楼建立会が募集したもので、入賞者には一首200円が出されたとのことです。その中にはたとえば次のような歌もあります。戦争に負け、新しい憲法ができた当時の人々の新しい国や憲法への思いが痛いほど感じ取れると思います。また、あちこちで紛争やテロが絶えない現在の状況の中でこれらの歌を読むことにより、平和への思いを新たにすることができると思います。

    われら選ぶ人のをさむる新しき
      国輝けと一票を投ず
    ひむがしに美し国あり矛はすて
      海に漁(すなど)り土にいそしむ
    天地(あめつち)のはてまでひびけ日の本(ひのもと)の
      平和の鐘は今鳴り渡る

  これらの平和百人一首のうたのそれぞれをカルタに仕立てた方がいらっしゃいました。星野せいさんとおっしゃり、この百人一首の入選者のお一人でした。星野さんは自らの子供たち5人のためにこの平和百人一首を読み札・取り札のセット(1セット200枚!)として筆に認め、残したのだそうです。そのカルタに親しんだ家族の一人が上掲書の編者大竹桂子さんです。大竹さんは国立国会図書館や東洋大学図書館や国際日本文化研究センター図書館などの資料を紐解きながら、ひとつづつ当時の平和百人一首の形をよみがえらせていたのだそうです。大竹さんが当られた資料には、読売新聞に載っていた平和百人一首の募集広告や、マイクロフィッシュ化されたプランゲ文庫の資料--戦後すぐの出版物はGHQの検閲の対象になってましたが、プランゲ文庫はその時の出版物の状態を垣間見ることのできる貴重な資料です--もありました。そのような取り組みでよみがえらせていった平和百人一首のそれぞれに、稲田さんが絵を書き添えたのが今回出版された上掲書です。

 人々が生きた社会での熱い思いが記された資料が、図書館という場所で記録されることにより、次の世代に受け継がれ、人々の生きる原動力になっていきます。憲法が施行されて60年たち、世の中の動きが激しくなっている今、皆さんもこの本を手に取りながらそのことに思いをはせて見られてはいかがでしょうか。また、展覧会は5月6日まで行われているとのことですので、ぜひ多くの方が足をお運びになるとよいと思います。

諦めるのは、最後でいい

 図書館のカウンターに立ち続けていると、ハッとさせられる瞬間に出くわすことがある。図書館とは資料を求める利用者と、その資料の制作者と、私たち司書がそれぞれ織りなす物語の交差する場所であり、そこでは日々重たいドラマが積み重ねられているので、そのようなハッとさせられる瞬間に出会うわけである。今回はそのような瞬間の中で、利用者のお許しが頂けたものの中から、一人の大学院生さんとの物語を皆さんにご紹介してみたい。

 ある昼下がりのカウンターに、その大学院生さんは来館した。「司書さんこんにちは。おかげさまで先ほど修士論文を無事提出してきました」。こちらの脳裏には、その人に対してどのような対応をしてきたのかが頭を駆け巡っていた。「そうですか、無事提出してきたのですね、おめでとう…。」こちらはそう口にするのが精いっぱいで、あとは言葉にならないものがただこみあげるだけであった。

 その人が書こうとしていた修士論文は、自然科学、もっと細かく言えば藻類に関するものであった。私たち司書にいただいたご依頼は、ドイツで出版された資料で、藻類の世界で何十年来多くの論者に言及されていた文献の入手であった。しかし、残念ながら日本で使われている総合目録“NACSIS-WEBCAT”では探すことができなかった。ドイツをはじめとして欧州・北米等を広範囲にカバーする検索手段である“KVK”(Karlsruher Virtueller Katalog)を用いさえすればどうということなく見つけることができる資料だったのだが、その人の状況を伺うと、おいそれと海外にその文献を発注するわけにはいかなかった。

 入手すべき資料が入手できないとき、論文を書く人たちの姿勢が問われることになろう。入手が大変な論文の入手を諦め、その論文を使わずに済ませてしまう方も結構おられるようである。しかし、その人はそうはしなかった。多くの人に言及されてきた資料であるならば、自らも絶対に入手して、確認をしなくては済ませられない…。その人を、しっかりとした信念が支えていたのである。

 総合目録すなわち多くの図書館が参加して構築する目録は、多くの場合、資料を探す上での決定打になる。ただし、総合目録に見当たらないからと言って、諦めるのはあまりにも気が早いと言わざるを得ない。図書館によっては、様々な事情により総合目録にデータを送り出していない場合も多いからである。私たちはその利用者の信念に心打たれて、総合目録以外の手段を講じることにした。つまりは、自然科学系図書館の個別の目録をしらみつぶしにあたろうとしたのである。ここで、司書としては、今日本にどのような自然科学系図書館があるのかをしっかりと把握している必要がある。私たちが用いたのは東京都立中央図書館発行の『類縁機関名簿』や専門図書館協議会発行の『専門情報機関総覧』、それからそれぞれの司書たちの経験である。そして、シラミつぶしをはじめて、幸運なことに最初の図書館、国立科学博物館図書館で目指す資料に出会ったのである。私たちが利用者に国立科学博物館図書館のことを伝え、その人が早速大久保にあるその図書館に出かけて行ったのは言うまでもない。

 その後も、その人に対してはその時々で必要な文献入手のお手伝いを続けてきた。例えば、情報が細かいところで不明確な論文など。もちろん、それぞれの仕事の中では関連する図書館の司書さんとの協力が不可欠であった。

 私がカウンターに立ってきた中で、おはずかしながら「会心の出来」などと言える対応はめったにない。いつも、ああすればよかったという後悔の連続になってしまうことが多い。しかし、その人が無事論文提出の報告に来てくれた今回のケースは、こうしてよかったという思いが残った数少ないケースであった。また、こうも思っている。私たち司書にとって「諦めるのは、最後でいい」のだということ。なぜなら司書があきらめてしまったら、利用者の物語はそこで終わってしまうからである。

 その利用者を見送りながら、今後も、図書館がその人の大切な場所であり続けますように、と願い続けていた。そして、私たちも、それぞれの利用者にとって図書館が大切な存在であり続けられるよう、技を磨き続けていかなければ、と考えている。

参考資料

“KVK” http://www.ubka.uni-karlsruhe.de/hylib/en/kvk.html

“NACSIS-WEBCAT” http://webcat.nii.ac.jp/

情報収集・問題解決のための図書館ナレッジガイドブック : 類縁機関名簿 / 東京都立中央図書館編. --
 東京 : ひつじ書房, 2003.10-

専門情報機関総覧 = Directory of special libraries / 専門図書館協議会 [編]. –
 東京 : 専門図書館協議会

« 2008年4月 | トップページ | 2008年6月 »

無料ブログはココログ