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2008.05.04

バンクーバー図書館探訪報告

(この文章は、3年前2005年に管理人がカナダのヴァンクーヴァーを訪ねたときのものである。)

1 始めに

 私の身近なところで、大学と民間企業(玩具メーカー)とが協力でおもちゃや児童図書を有機的に扱った子どもの図書館を設立しようようというという動きがあるのだと聞いた。また、その話を耳にしてすぐのころに、カナダの図書館が児童サービスやおもちゃ図書館の面で活発な活動を行っていることを知人から教えられた。それらのことに啓発されて今回のバンクーバー行きを決めた。尚、バンクーバーはブリティッシュコロンビア州の中心都市で、人口55万人弱、市には20以上の異なる文化的・言語的背景を持つ人々が暮らす。

 カナダの児童図書館については、林宥子によるトロントの「少年少女の家」についての報告や、赤星隆子によるカナダ児童図書館の基本理念やその背景について論じられた文献などがある。例えば、後者では、次のようなことが取り上げられている。①カナダ図書館協会が発表したガイドラインで予算や資料、お話会、多文化活動、視聴覚資料、コンピュータ、運営方法や広報などが取り上げられていること ②このガイドラインがカナダの児童図書館を語る上で重要であり、などが取り上げられていること ③カナダの隣国である米国で、「あらゆる環境にいるすべての子どもたちの要求に対応しうる幅広い範囲の資料を、図書のみならず、玩具から、視聴覚資料、電子媒体にいたるあらゆる形態にわたって収集すること」などが重要視されていること。今回の旅は、それらに描かれていることを再確認させられた旅となった。

2 おもちゃ図書館のこと…Aldergrove Family Place

 この旅行の過程で、今回大学で考えられていることに近いのであろう図書館活動を行っている団体の情報を得た。Aldergrove Neighbourhood Services Societyという団体が行うAldergrove Family Placeという活動である。バンクーバー郊外のLangleyという町の地域の学校(Community School)のそばで活動を続けており、後述のバンクーバー公共図書館のウェブページによると下記のような活動を続けているのだという。大変興味深く感じた。

6歳までの子どもを持つ親御さんやその子どもたちに関わる方々のための非公式な訪問場所である。子どもたちにゲームを提供したり、一緒に活動したり、子どもたちのために玩具や本のある図書館を開いたり、情報提供や紹介サービスをしたり、親御さんのための教育や支援を行ったり、その場所まで来られない人のためにアクセス保障のサービスをしたりしている。また、ボランティアの募集もしている。

3 バンクーバー公共図書館(中央館)

 バンクーバー市内にあるこの図書館は、今年が移設・開館から10年の節目なのだそうである。すべての人へのアクセスを重要視すること、すべての人の暮らしを豊かにすることTo enrich all, to reach allに重きを置いて活動をしているのだそうであり、訪問者である私が一見しただけでも目を見張るような図書館サービスを行っている。

 外見はローマのコロッセオのような建物であり、”Vancouver Public Library”と記された扉を開けると立派なプロムナードが現れたのには驚いた。ここでは図書館主催の催し物が行われることも多いそうで、私が訪問したときには、アジア系の方々の文化遺産に関心を持とうという趣旨で行われている”ExplorAsian”という取り組みの一環として、日系・韓国系・中国系等の団体の人たちが展示・プレゼンテーション等を行っていた。

 次に目を引いたのは、利用者向け刷り物—案内—の多様なことである。OPACの引き方から近くの分館への案内、テーマごとの文献案内から、文献の探し方。必要に応じて英語以外の言語でも発行されている。一つ一つの案内書は大変わかりやすくできており、それらをうまく利用して利用者への案内を行っている様子が理解できた。

 2003年時点の蔵書冊数300万冊弱、同年の貸出冊数総計900万冊弱、訪問者総計600万人以上、登録率65パーセント。また、同年の典型的な一日を取り出しての貸出冊数33,000冊以上、訪問者23,000人以上、これが中央館を含む22館で行われた図書館活動の一面である。

 この図書館の活動内容はとても盛りだくさんであり、すぐには語りきれないので、ぱっと目に付いた印象だけをメモに残すことにする。

A 児童サービス

 中央館児童室には、児童書や大人向けの子どもに関する本、参考図書、その他に展示図書、大活字本、障害に関する本、フランス語で書かれたこれらの本、第2言語としての英語学習(ELS)に関する本などが置いてある。

 図書以外に、玩具も重要な道具となっている。おもちゃ図書館と異なり、おもちゃ自体を貸すわけではないが、子どもたちの催し物などの際に効果的に用いられている。読み聞かせについては、英語については児童担当、英語以外での読み聞かせは後述する多文化サービス担当が行っているとのことである。

 また、ウェブ上でも文献案内など様々なコンテンツが公開されている。子どもたちの使うコンピュータには有害サイトを見させないためのフィルタープログラムがセットされているが、そのコンピュータを子どもたちに強制するのではなく、子どもたちに選ばせているのだそうである。学校関係者と協力して、児童たちに図書館のコンピュータルームで図書館の情報へのアクセス方法を教える取り組みも行われている。

 学齢期の児童には、レファレンスの延長として、生徒たちの宿題を支援する取り組みhomework help--出された宿題に対し、どのような調べ方があるのかを教えることなど--が行われている。

 他機関と共同で、学齢期前の子どもを持つ親への情報提供のパンフレットを12言語で作成している。

B 多文化サービスなど

 この図書館では、英語以外の言語を用いる人々蔵書構築などを通じて積極的に対応が行われている。

 蔵書についていえば、バンクーバーで用いられている言語に対応する資料収集が行われている。その中には、英語以外の児童図書も含まれている。21言語のコレクションがあり、現在は14言語のものが更新中である。収集に関しては、センサス等の統計書や、貸出データ等を参考にしているとのことである。

 また、他組織と共同で催しを行うこともあり、United Chinese Community Enrichment Services Society(中僑互助会、在バンクーバー中国人団体)と共同で就業指導についての講習会なども行われている。また、”Immigrant Service Society of British Columbia Training Insitut”が英語と利用者の第一言語で行う職業カウンセリングについてのチラシも図書館で配布されていた。

 広報についても、貸出カードの作り方等の広報用パンフレットはそれぞれの言語で発行されている。

 新聞コーナーでは日本の『読売新聞』を含めて全世界からも新聞が集められていて、また、配布用に各国語のメディアを置くコーナーもあった。

4 ブリティッシュコロンビア大学図書館

 ブリティッシュコロンビア大学図書館へは、市内から30分位バスに揺られて行った。回りを海に囲まれた丘の上に立っており、大変眺めの良いところである。キャンパスの広さにはただただ圧倒されるばかりであった。

 図書館は石造りの本館と、ガラス張りのKoerner図書館の2館を訪ねた。キャンパスにはこの2館や主題専門図書館を含め、全部で20以上の図書館が設置されている。統計によると2004年時点での蔵書は500万冊弱、2004年に加わった冊数10万弱、それを司書や支援業務者などを含め総勢300名以上で支えている。使命宣言(mission statement)のなかで、図書館は大学の指名を遂行する学生や教員・職員に対する能動的かつ総合的なパートナーであると謳われている。

 利用環境(資料・座席・端末・無線LANなど等)も大変申し分なかった。検索端末は学内利用者が使うもの…利用者IDとパスワードを入力…と学外者も利用できるもの…ログインは不要…があり、私もこの図書館の用意している検索メニュー…OPACや、主題ごとに分類されたデータベース等…を効果的に用いることができた。この図書館でも、利用者向けパンフレットは有効に用いられていた。

 最後に、貴重書・特殊コレクション・大学資料室を特筆しておく。私が検索していたら、ブリティッシュコロンビア大学で30年前に行われたおもちゃ図書館のプロジェクトに関するパンフレット”The tale of the toy library”がこの大学資料室にあることがわかり、閲覧させていただくことができた。

 ここまで書き進めて、ふと、日本での身の回りでの経験が頭をよぎった。現在、大学図書館の世界では機関レポジトリ等大学での研究成果の収集・発信の重要性が強調されている。しかし、普段の業務の中で、例えば学外から自らの大学の出版物に対するリクエストがあったときにもすぐには応えられずに研究室等に問い合わせることが良くある。なおかつ、このような情報は、集めるべき時を逸すると致命傷になるということや、長年の積み重ねがものを言うということも十分承知している。今回、ブリティッシュコロンビア大学図書館で30年前の大学プロジェクト資料にすんなりとアクセスできたことで、私は、この図書館の司書の皆さんの底力を再確認させていただいた。

5 最後に

 この文を書き進める自分の頭の中に、今回出会った図書館の姿がいくつも重ね合わさった。例えば、「すべての人へのアクセスを重要視すること、すべての人の暮らしを豊かにすること」を謳うバンクーバー公共図書館。また例えば、「図書館は大学の使命を遂行する学生や教員・職員に対する能動的かつ総合的なパートナーである」と謳うブリティッシュコロンビア大学図書館。そして、最初に出会った、児童やその親にと一緒に様々な活動を続ける団体の方々を含めて、これらに関係する方々が、利用者の活動や生活、人生と真摯に向き合う姿を確認させていただいた。

 翻って、日本では、今後図書館の力がますます問われていくであろうことが予想される。社会がますます変わっていき、それにつれて情報(資料)と、それを用いる人たちを結んでいく司書の役割が重要なものになるのだろうと考えているところである。但し、図書館1館だけでできることは限られていることも承知している。

これから重要なことは、社会の中で何が重要なのかを図書館側で見抜くこと、そして図書館の限られた資源の中で何ができるのか、1館だけでは不可能ならば、誰と手を組めばできるのか—例えばバンクーバー公共図書館が関連機関と一緒になって外国人向け催しを行っているように—を見抜くことなのだろう。そのことを再確認することができた、今回の旅であったと考えている。

参考文献
赤星隆子「児童図書館の基準と指針 アメリカ、イギリス、カナダにおける児童奉仕の基本理念とその背景」
  『論集・図書館情報学研究の歩み』第17集(1997),pp.7-43
桂宥子『理想の児童図書館を求めて トロント「少年少女の家」』
東京 中央公論社 1997(中公新書)
"Aldergrove Family Place"
http://www2.vpl.vancouver.bc.ca/DBs/RedBook/orgPgs/2/2297.html
“UBC Library 2003-2004” [University of British Columbia Library], 2004
“Vancouver Public Library annual report” Vancouver Public Library, 2004

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