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2009.01.01

「派遣切り」の時代に図書館でできること…横浜市立図書館法情報提供サービスの紹介

 昨年来押し寄せてきている「米国発の経済不況」の中で、いわゆる「派遣切り」を含め雇用が大変な状況になってきています。「大量失業時代に図書館にできること」というブログ記事のなかで、発言者は「そのような時にこそ、公共図書館に何ができるのかが問われているように思います」と述べておられますが、管理人もその趣旨には大変賛同します。そこで、今回は昨年末にオープンした横浜市立図書館(横浜市中央図書館)の法情報提供サービスを見学した際の印象記を紹介します。

 「中央図書館暮らしの中の法情報コーナーオープン」というページに概略が載せられているので、そちらも合わせてご覧いただきたいと考えますが、この法情報コーナーでは、法が必要となる様々な場面に対して、参考文献が揃えられていて、また、法律相談関係の機関のパンフレットのファイルが用意されています。また、コーナー以外の全館に置かれている法情報・資料へのガイドがなされています。エレベータ前の目立つ一角に設けられたコーナーでは「あなたの身近な法律」と題した、エレベータ前で行っている展示コーナーで<派遣切り・内定取消>特集が展開されています。

 その展示コーナーでは、法律相談・教科書・実務書等の資料で、内定取消や派遣の中途解約などについて記載されているページにしおりが挟まれた状態で、展示してあります。また、関連機関のウェブサイト上の解説記事をその機関に許諾を取った上で展示してあります。基本的な凡例についての判例解説・評釈論文の文献の該当ページにしおりが挟まれた状態で展示されています。労働相談窓口等関連情報を収録するファイルも作成して展示してあります。

 上記の横浜での取組は、まだ始まったばかりではあります。しかし、様々な場所で、このような取り組みが積み重なっていくことで、公共図書館がこの「派遣切り」の時代に対してできることは多様になっていくのではないかと考えています。横浜市ということで少々遠くはありますが、関心をお持ちの方は一度ご覧になってみるとよろしいかと考えています。

2008.11.07

「ミヤモトさんの手紙」へのお返事

           池沢昇(東京の図書館をもっとよくする会事務局)

 お手紙をいただきありがとうございます。お返事を申し上げます。

 私たちの会が非正規職員について掲げているのは「専門的知識と熱意を持っていている図書館非常勤職員が民間委託や経費削減のために解雇されることのないように取り組みます」「図書館に配置される受託会社社員の多くは低賃金・無権利状態で働いています。その待遇改善を行政・受託会社に求めます。また、図書館サービスを向上させるため、原則的に司書有資格者を配置するよう働きかけます」(「08運動の進め方」)ということです。

 しかし、私たちの会がやれる範囲は限定されていると思っています。非正規職員の待遇改善は、当事者である非正規職員が運動を担うべきと考えています。当事者が声を挙げないところででは、若干の改善はありえても、根本的な改善は困難です。

 「図書館に働く労働者の待遇改善,生活できる賃金と安心して図書館で働ける環境を獲得するために頑張っていきたい」と述べたところの、具体的な行動として私たちがやろうとしているのは、①非正規労働者の問題を社会に訴えていく、②非正規労働者の「生の声」を発信する、③非正規労働者の運動組織(労働組合)の結成を支援する、の3点です。11月16日(日)に交流集会を開催します。それは、非正規労働者に焦点をあてて、これからどうするのかというところまで議論する場として企画しています。ぜひ、多くの方々が来て、討議に加わることをお願いします。

 日本の非正規労働者数は1700万人を超え、被雇用者の3分の1を超えました。年収200万円以下の労働者は1000万人を超え増え続けています。アメリカに発した不況は瞬く間に世界恐慌に発展する様相を示し、今、全世界規模で新たなリストラ解雇が始まろうとしています。正規労働者は非正規労働者にとどまることはあっても、非正規労働者は解雇されます。この犠牲のしわ寄せは非正規労働者にもっとも激しく集中すると思っています。構造改革による労働規制緩和は、終身雇用制を破壊して、低賃金かつ不況時にはいつでも首を切れる労働者を大量に作り出す目的で進められたものです。それが何をもたらしたのか、目に見えるようになり、マスコミも社会問題として大きく取り上げるようになりました。何もしなければ危険が迫るが、動けばそれなりの成果が期待できる岐路にきていると、私たちは思います。

 「告発のとき」という、ポール・ハギス監督・脚本の今年公開された映画があります。イラク戦争から帰った息子が殺され、父親がその真相を突き止めようとする物語です。映画に、周囲の冷たい目を無視してこの殺人事件を捜査する地方警察の若い女性捜査官が登場します。軍警察の意向を受け入れた警察上層部は、捜査中止を求め、左遷すると脅します。女性捜査官は「私は労働組合に入っている」と答えて捜査を続けます。彼女の入っている労働組合はいざというときに彼女を支援して闘ってくれる労働組合なのだなと感じました。アメリカでは警察官が労働組合を作っていてそれが労働組合として役立っていると言うことは、日本では考えられないことです。しかし、そういう労働組合が必要なのであり、そのような労働組合を作らなければなりません。

 幸いなことには、非正規労働者の問題は、前述のように社会的に大きな問題になっていてマスコミもとりあげ、各地で声も上がっています。一歩踏み出すにも、条件は整っているように思います。

2007.11.03

"『Tea with Elisabeth』出版記念Ken Ross写真展"に寄せて

 今日(2007.11.3)、六本木の国際文化会館で行われた標記の写真展に行ってきました。"Elizabeth"とは世界的ベストセラー『死ぬ瞬間』(鈴木晶訳、1998-1999読売新聞社刊行)等で有名な精神科医エリザベス・キューブラー=ロス博士(1926-2004)のことで、死の受容のプロセスに着目することや、愛するものを亡くした後の悲哀(Grief)やそれを癒す悲哀の仕事(Grief work)にの重要性について最初に触れた方です。後の医療者たちに決定的な影響を与え続けている方だと言えましょう。『死ぬ瞬間』は随分昔に千葉敦子さんの本や柳田邦男さんの一連の医療ルポを夢中になって読んでいた頃に出会った本で、前日に偶然新聞で目に入った広告記事に引かれて六本木まで足を運んだというわけです。

 この写真展は一日限りのものなのですが、中ではエリザベス博士のご子息であるKenさんが世界各地で撮った写真や、エリザベス博士の少女時代からの物語のビデオがあり、そこではスタッフの皆さんの働きもあって素敵なひと時を過ごすことができました。また、11月13日に発売予定だという『エリザベス・キューブラー・ロスの思い出(Tea with Elisabeth)』(麻布小寅堂刊行)が先行販売されていたので、早速手にとってみました。博士との思い出を、親しかった世界中の50人が綴った『Tea with Elisabeth』の日本語版だとのことで、米国オリジナル版に先駆けての出版決定なのだそうです。紐解いてみると、死に直面した人たちに真摯に寄り添った博士の人柄がその人たちの筆からより明らかになっているのだということが確認できました。ロス博士の一連の活動は、私たちに再び「生きるとは」ということを問いかけているのだろうと思います。

 六本木を後にしながら思い返したことがあります。図書館には、例えばキューブラー=ロス博士の一連の『死ぬ瞬間』関係の著作など、それぞれの著者の方々が真摯に活動されたところから生まれた本があります。そして、キューブラー=ロス博士はもはやこの世にはいらっしゃいませんが、私たちは図書館に置いてあるそれらの本を通して今でも彼女の活動の一端に触れることができます。そして、図書館には「知りたい」と願う利用者が訪れ、例えば『死ぬ瞬間』を手に取ったりなどします。利用者が活動を続けていくために必要な資料を探しに図書館に来るという物語と、著者の方々の活動の物語。ならば私たち司書はどうすべきか。

 答えは一概では言えないでしょうが、きっとこのようになるのでしょう。利用者の「読みたい」をお手伝いするプロとしての司書。司書たちが活動を積み重ねてきて、今後とも積み重ね続けていくその物語の中で、利用者の思いにアンテナをしっかりと張り、著者の思いに、そして日々生まれてきている資料にアンテナを張り、しっかりと必要な資料を集めて利用者に提供していくことなのでしょう。

 言ってみれば当たり前のことではあるのですが、今日の写真展を見てその思いを新たにした次第です。

エリザベス・キューブラー・ロスの思い出 ファーン・スチュアート・
ウェルチ、ローズ・ウィンタース、ケネス・ロス編集 
松永太郎翻訳
東京 麻布小寅堂 2007
ISBN 978-4-9903853-1-6

2007.10.28

「利用者と向き合う」ということ

 お気づきかもしれないが、図書館司書、中でも利用者との対応の最前線に立つ者の仕事には、対人サービスの要素が色濃く現れる。様々な人生経験の中から様々な情報ニーズをもって訪れる利用者に向き合い、想いをお伺いし、そしてその方の必要な情報へのアクセスをお手伝いする。その中で、それぞれの司書は力を尽くそうとしているわけである。

 利用者としっかりと関わろうとした司書の顔は、利用者のほうでも良く覚えていてくださる場合が多いらしい。私などは例え非番の時であっても利用者の方から声をかけてくださることがよくある。光栄なことである。例えば成田空港の出発ロビーで、「司書さんですね、どちらまでですか?」「はい、シドニーまでです」等のやり取りが生まれるわけである。

 今回は、そのようなやり取りの中から、特に私の心に残っておりなおかつ利用者から「他の人に紹介してよろしい」とお許しいただけたケースを記そうと思う。しばらくお付き合いいただきたい。

*********************

 それは、とある土曜日のJRの車内での出来事であった。毎週のスケジュールにしている本屋巡りに向かおうと、中央線に乗り込んだところ、温厚な年配の紳士が声をかけて下さった。実は、私がかなり長期間対応していたレファレンスの依頼者であった。仮にA先生とさせていただく。A先生は、20世紀にスイス等欧州で活躍した音楽教育家でありリトミックの創始者であるE.ジャック=ダルクローズ(1865-1950)の研究をされている方である。

 話は2005年に遡る。A先生がそのレファレンスの依頼のために来館した。ジャックダルクローズは"Le rythme, la musique et l'education"(「リズム・音楽・教育」の意味。Fischbacher & Rouartより刊行)という本をフランス語で著しているのだが、Julius Schwabeの翻訳によるドイツ語訳"Rhythmus, Musik und Erziehung"(Benno Schwabe刊行)には存在する「リズムの根源は労働」という件が原書の今手元にある版には存在しないので、そのドイツ語訳版の元になったフランス語原典版を探し出したいということであった。ちなみに、この"Le rythme, la musique et l'education"は開成出版および全音楽譜出版社から日本語訳が出版されている。

 A先生のおっしゃる「リズムの根源は労働」という言葉を聴いて私が連想したのは、一つはニシン漁を背景に生まれた北海道民謡の『ソーラン節』であり、もう一つはかつてのロシアの農奴たちが船を曳く情景の歌だという『ボルガの舟歌』であった。音楽と人生の深い関わりを語る言葉なのだと、A先生が提示した言葉を捕らえたわけである。そして、その言葉が翻訳版にあって原語版にはないということの問題意識も「わかった」上でレファレンスの作業に赴いたわけである。

 これは少し脱線になるが、私がこのように感じることができたのも、ある程度人間をやってきて、図書館に身を置いてからの経験が蓄積していたからなのだと感じている。幼き日々の学校教育から、司書になってからの様々な知識・経験、その他様々なことの積み重ねが日々の利用者との関わり方に出てくるのだと私は確信している。

 本筋に話を戻していこう。司書が本を探し出すときに武器にするのは当然の事ながら目録である。まず目にしたのは、日本国内の大学図書館が大方参加する総合目録であるNACSIS-WEBCATである。しかし、これで見つけられるのはA先生がお持ちの版でしかない。次は北米をベースに世界中の図書館が参加し、日本でも若干の大学図書館が参加するOCLCの"WorldCAT"や、ドイツのカールスルーエ大学図書館が提供している欧州・北米・豪州図書館検索への橋渡しシステムである"KVK"であった。それらしき版の資料が見つかったら、コピー取り寄せ依頼を行ったのは言うまでもない。しかし、それらからも、A先生の望む資料は見つけられなかった。

 求める資料への道筋が困難なとき、司書は時として図書館の公式制度上のつながりだけではなく個人的なつながりをも武器にして闘う。武器として管理人が採用したのは、国内外にある図書館関係のメーリングリスト。管理人が所属する研究団体のメーリングリストや、その他有志が集まるもの。海外では、国際図書館連盟(IFLA)が運営するIFLA-Lというリストにメッセージを投稿した。おかげで、国内外の各地からありがたい助言を頂いた。もちろん、寄せられたメッセージを基にして次の行動に移っていたのだが、それでもA先生の望む資料は見つけられなかった。

 ジュネーヴ・ジャック=ダルクローズ学院(Institute Jacques-Dalcroze Geneve)とのやり取りもあった。若干の行き違いもあったが同学院の司書とやり取りを続けたことにより、ジャック=ダルクローズに関する手稿など生資料がジュネーブ大学図書館にあることまで分かってきた。しかし、その中にもそれでもA先生の望む資料は見つけられなかった。だんだんと月日ばかりが無駄に過ぎていった。

 当人及び当該資料の調査が暗礁に乗り上げたため、A先生との協議により、関係者に調査の網を広げた。最前の国際図書館連盟経由で知ることとなったスイス国立図書館によるサービス"SwissInfoDesk"--スイスのこと全般に対応するレファレンスサービス--に対してジャック=ダルクローズ関係者についての調査を依頼したのだが、これもまた効果なしに終わってしまった。

 もはや、司書の立場で打てる手は尽きたと考える他はなくなり、A先生にご自身での研究者との連絡をお願いしたうえで管理人は作業の続行を断念した。着手から1年。その場に残ったのは後味の悪さだったかもしれない。

 JR車内でA先生にお目にかかったのは、管理人が断念した半年後のことであった。A先生によると研究者との連絡は失敗に終わったとのことで、今までに得た情報だけで結論を出し、学会に今回の件について発表したいとのお話を頂いた。車中では、目録の上に目的の資料を表すことや、目録から必要な情報を読み取ることがいかに難しいかという話になり、また私に対するお礼とねぎらいの言葉も頂いた。そのことを伺って、自分自身、肩の荷がようやく降ろせたという感があったように覚えている。

**********************************

 図書館に身を置く私自身の活動の一端をお目にかけた。先ほど書いたように、幼き日々の学校教育から、司書になってからの様々な知識や経験、それらもろもろのことの積み重ねが日々の利用者との関わりにとってとても重要になるのだという想いを新たにしている。これはきっと他の司書の方にとっても同様であろう。

 図書館とは、ただ単に機械的な操作により図書を貸し借りするだけの場ではない。様々な人生経験の中から様々な情報ニーズをもって訪れる利用者と、様々な人生経験に裏打ちされたプロフェッショナルとしての司書たち、そして様々な立場の制作者が生み出した資料の出会いの場である。より良い3者の出会いを積み重ねていくために、今後とも私たち図書館に関わる者はしっかりと歩みを進めていくことが求められているのだと、私は再確認した。

2007.04.15

[映画紹介]ラデュ・ミヘイレアニュ監督作品『約束の旅路』

 土曜日の午後、管理人はいつものように都内の大型書店を巡り歩いていた。東京のM社、Y社、そして神保町。岩波神保町ビルの脇をすり抜けたとき、岩波ホールの大型の宣伝が目に飛び込んできた。現在上演されているのは『約束の旅路』という映画である。読者の中にはご覧になった方も多いかもしれない。私は映画も大好きなので、無論立ち寄った。今日はこの映画について記したい。

      『約束の旅路』 ラデュ・ミヘイレアニュ監督作品
      2005年 フランス映画

 第56回ベルリン国際映画祭等で受賞したというこの映画は、エチオピアにユダヤ人が暮らし、彼らの聖地エルサレムへの帰還を太古から願っていたことと、1984年にアメリカとイスラエルがこのエチオピアのユダヤ人をイスラエルへと帰還させる「モーゼ作戦」という作戦があったこと、そして彼らエチオピアのユダヤ人には大変な苦難の歴史があったことなどのナレーションから始まった。そのようなナレーションに続いて現れたのは家族を失ってスーダンの難民キャンプに主人公の男の子とその母親がたどり着くシーンであった。母親は男の子に「行って、生きて、何者かになりなさい」とのはなむけの言葉を送りつつイスラエル行きの集団に向かわせる。

 その男の子を含めイスラエルに到着したエチオピア・ユダヤ人達を待っていたのは歓迎だけではなく、例えば少年は学校で差別にもであった。エチオピアから来たほかの大人たちも同様である。少年はリベラルな養父母の元で世の差別や偏見から守られて、同じエチオピアからの難民の老人に啓発されながら成長していくのだが、少年はいつも自分のアイデンティティに悩むこととなる。

 男の子は成長し、医者を目指すようになる。パリに出かけ医師になるべく教育を受ける。そして、ラストシーンは彼が「国境なき医師団」の一員としてアフリカの難民キャンプに出向き、そこで「いまだ難民のままである」自らの母親と再会する場面となる。

 7年前にIFLA大会に参加すべくイスラエルを訪れたことのある管理人には、随所に出てくるイスラエルの風景や当時のニュース映像が自らの記憶を生々しくよみがえらせる契機となった。オスロ合意、インティファーダ、嘆きの壁、テルアビブ空港の出発風景、など等。また、自らのアイデンティティや「何者かになりなさい」との母親からの言葉にどのように向き合うかに悩んでいた主人公が難民キャンプ赴任経験のある医師の治療を受けたことがその後の主人公の人生行路に大きく影響する様をみて、「きっかけ」の大切さを見せ付けられた。

 イスラエルを訪ねたことがあるとは書いたものの、不勉強ながらエチオピアのユダヤ人という話や「モーゼ作戦」などはこの映画を鑑賞するまでまったく知らなかった。知らなかったけれども、この映画を見て、それらのことは主人公の生き様ともども自らの心の中に染みとおっていたのである。

 この映画に触れた後、図書館に関わる立場で再確認したことは、図書館というのは、本やビデオ、CDなど、「誰か」の人生にとってとても大切な内容が盛り込まれている資料に出会える場所なのだということであり、また、図書館で本を選び、利用者の方々に提供していくには私達は世の中の森羅万象に対するアンテナの感度を高くしておく必要があるのだということである。

 この映画には下記の原作がある。もし良かったら皆さんも岩波ホールで映画をご覧になり、その後お近くの図書館でこの本を手にとっていただければ幸いである。

    約束の旅路  ラデュ・ミヘイレアニュ,アラン・デュグラン (著),
    小梁 吉章 (翻訳)
    東京: 集英社 2007/02
    ISBN-10: 4087605221
 
追記
 このエントリーは、「cinemacafe.net」で展開されているブログ募金に賛同して書きました。世界中で難民等になっている方々2,100万人の約5分の1がアフリカ地域におられるとのことで、シネマカフェ運営会社「株式会社カフェグルーヴ」では「『約束の旅路』映画が世界を変える ブログ募金キャンペーン」を実施しているとのことです。
 同社サイトには「遠い日本から、少しでも何か出来ることはないか?と思った方はぜひ映画を観て、感想をブログに書き、映画を広めてください」との呼びかけがあり、「『約束の旅路』をブログに書き込んでいただいたエントリ1つに対して、UNHCR(国連難民高等弁務官)駐日事務所アフリカキャンペーンに50円の寄付を行います」との趣旨が書かれています。

2007.02.17

『オランダ絵本作家展』見学記

 読者の中には子どもの本に関わっておられる方も多いことと思う。管理人は今日,そのような方々にとってとても関係があると思われる催しに出かけてきたので紹介したい。その催しの題名は『オランダ絵本作家展』という。

      オランダ絵本作家展 かえるくん,ミッフィーとオランダ
      絵本の仲間たち
      大丸ミュージアム東京(大丸東京店12階)
      下車駅:JR線東京駅八重洲口

 サブタイトルから分かるかと思うが,メインとなっている展示は「かえるくん」が出てくる絵本の作者としておなじみのマックス・ベルジュイスや,ミッフィーであまりにも有名になったディック・ブルーナである。これらの作者の絵本は,多くの公共図書館の児童室の棚にきっと収められていることと思うし,読者には,あのシンプルだが画面にしっかりと正対し,読者に語りかけてくるウサギたちの絵は印象的であろう。

 この二人だけでなく,オランダでは他の絵本作家たちも活発に活躍している。お恥ずかしながら普段あまり子どもの本に接していないのだが,そのような私でも記憶に残っているオランダの絵本の一冊に,祖父の死に直面した少年の姿を描く『おじいちゃんわすれないよ』 (作: ベッテ・ウェステラ 絵: ハルメン・ファン・ストラーテン 訳: 野坂 悦子 出版社: 金の星社)がある。今回の絵本展ではハルメン・ファン・ストラーテンの手になるこの本の原画をはじめ他のオランダ絵本作家、総勢12人の原画に出逢うことができ、オランダでの絵本の活動の一端に触れることが出来る。

 残念ながら大丸ミュージアム東京では2月20日までということであるが、絵本に関心のある方でお時間のある方は明日にでも東京まで足を伸ばしてみる価値があると思う。

2007.01.08

『千の風になって』に寄せて

 私管理人は、職場では主に図書館間相互協力の仕事をしているのだが、また、7~9門(芸術・語学・文学)の本の選書担当者の一人でもある。本を選ぶときは、選書リストとして用いている資料はあるのだが、願わくば実際に本物も手にとって見たい。そのような思いを持って、よく休日には都心の大規模書店を巡り歩いたりもする。今日お話したいのは、そのような書店めぐりのときに出会った、はっとさせられた本の話である。

 その本のタイトルは『千の風になって』。読者の中にも、年末のNHK紅白歌合戦にこの歌が取り上げられたことなどでご存知の方もあろう。「私のお墓の前で泣かないでください。そこに私はいません。千の風になってあの大きな空を吹きわたっています」という歌いだしで、まるで死者が残された者に語りかけるかのような、あの歌である。オリジナルの英語詩の作者は不詳。日本語詞と作曲が新井満さんの手になる。

 そして、関連資料として視界に入っってきた次の本やCDを、思わず管理人は衝動買いしていた。

   千の風にいやされて あとに残された人々は悲しみをどうのりこえたか
   著者:佐保美恵子
   東京 講談社 2004
   監修 新井満

   千の風になって スペシャル版 企画プロデュース:新井満
   東京 ポニーキャニオン 2006 CD
   「千の風になって」一曲のみを複数の演奏者がそれぞれ演奏したもの

 前者は、日英両方の「千の風になって」のあと、第1部では肉親との死別など身近に死を経験した方々がこの詩とどのようにかかわり、どのようにかけがえのない人との別れを形作って言ったのかが佐保さんの取材の元に描かれている。この中には、神奈川県の小学校で「命の授業」に最後まで取り組んで旅立たれた大瀬敏昭さんのことも描かれている。また、第2部では新井さんの仲間の連れ合いの方の死など、「千の風になって」誕生までの物語が描かれている。第3部では作家の故遠藤周作さんの奥様の遠藤順子さんと新井さんとの対談が掲載されていて、そこでもこの歌などを通してかけがえのない人の死や命のことが語られている。ちなみに、後者のCDで複数の演奏者とは新井満、Yucca、谷川賢作、中島啓江、コペルニクス、新垣勉、スーザン・オズボーンらのことである。

 管理人は、かつてよく読んだ作家柳田邦男さんの『犠牲(サクリファイス) : わが息子・脳死の11日』(文藝春秋, 1995.7)--自死したご子息を巡る物語--を手にして立ちすくんで以来、「死」についての本にはよく目が行くようになったのだが、今回の『千の風になって』の「私は墓の中にはいない」という表現には驚かされてしまった。今まであまり出会ったことのない表現だったからである。しかし、上述『千の風にいやされて』でご遺族の一人が「死によって人が存在しなくなると思うより、風や光になっていると思うだけで、大切な人を亡くした喪失感が浄化される」と語っているように、「私(死者)は風になって大空を吹きわたる」というメッセージが多くの人の心に力を与えているのだと管理人は痛感した。

 昨今、上述の『犠牲』やその続編である『『犠牲 (サクリファイス) 』への手紙』(同社,1998.4)、東京学芸大学教授である相川充さんの『愛する人の死、そして癒されるまで : 妻に先立たれた心理学者の"悲嘆"と"癒し』(大和出版, 2003.2)など、心理学者らが「喪の仕事(グリーフ・ワーク)」と呼ぶ事柄に関わる本が多く出版されている。そして今回の『千の風になって』。もっとも、一人ひとりの人生は全然別のものであり、どれ一つとして同じ離別の物語などない。しかし、『千の風になって』に触れて大切な人を亡くした喪失感が浄化されると感じられた方がいらっしゃるように、書物などは時としてその人を新たなステージへと導いていく力となりうる。そして、管理人はこのように思う。図書館も、風を心に受けて進んでいくための大切な場所の一つとなりうるのだと。また、図書館に関わる者は、そのようなことに対して感覚を鋭敏にしていかなくてはならないということも、今回『千の風になって』に触れて痛感したことである。

追記
 こちらから新井満さんの公式ページ「マンダーランド通信」を訪問できます。
 http://www.twin.ne.jp/~m_nacht/

 

2006.10.14

本に携わる人の想い……[番組紹介]NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』その2

 先日、当ブログでNHKの番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』を紹介させていただいた。毎週木曜日の22時に放映される番組で、それぞれの畑で一流の仕事をされている人々を取り上げて、その人の仕事や、育ってきた過程(転機をも含め)、どんな道具を持ち、どんな想いを抱きながら仕事に臨んでいるのか、そして、番組の最後に「プロフェッショナル」という概念に対するその人の定義を取り上げている。

 今回は再びこの番組を取り上げてみたい。なぜなら、私たち図書館にかかわるものにとても深く関係している畑の人…本の編集者…が取り上げられていたからである。

「ベストセラーはこうして生まれる 
〜 編集者・石原正康 〜」
『プロフェッショナル 仕事の流儀 第28回』NHK総合,2006年10月12日

 石原さんが送り出した本は村上龍『13歳のハローワーク』や、渡辺淳一『愛の流刑地』等数多くあり、その多くが大ヒットとなっている。番組では、村上さんや渡辺さん、山田詠美さんら作家たちと石原さんがどのようにかかわりながら本が生まれているのかが克明に綴られていた。石原さんは自らの編集の仕事を作家にとっての助産婦(産婆)なのだと例えるのだが、自らの仕事以外の時間でも作家たちと腹を割って付き合い、作品誕生を強力に支援し、いざ作品が生まれればその熱い想いを伝えていこうと、書店等の訪問を欠かせていない。

 図書館が担っている仕事は、図書館の利用者の活動の過程で生じる「知りたい!読みたい!!」の想いと、本を生み出す人々の「伝えたい!」の想いを繋ぐお手伝いをすることなのだといえよう。そして、その図書館にかかわる私たちは、図書館の利用者をよく知る必要があるのと同様に、本(その他の資料も同様)が生み出される過程についてもよく知っておく必要があるということも言えよう。今回の番組を通じて、その思いを強くした。

参考WEB

「プロフェッショナル 仕事の流儀 石原正康」『茂木健一郎クオリア日記』
http://kenmogi.cocolog-nifty.com/qualia/2006/10/post_67aa.html

NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」オフィシャルサイト
http://www.nhk.or.jp/professional/

2006.08.27

悲しい物語を繰り返さないために図書館ができること(2) 止むことのない医療過誤に寄せて

 Yahoo!ニュースやGoogle!ニュースをご覧いただくと、あまりにも多くの医療過誤や医療事故が起こっていることが読み取れるであろう。当然これらに載らないものもあるに違いない。医療を受けよりよい人生を歩いていこうとされたはずの方々の身に事故が起こることで、ご本人やゆかりの方それぞれの人生は計り知れないダメージを被ってしまう。もちろん、医療者側も様々な取り組みを続けておられるのだろうが、それでも残念ながら医療過誤は続いている。そして、医療過誤は他人事ではなく、いざというときにはわが身に降りかかってくる。

 このようなことが常々頭の隅にあった管理人だが、今回韓国のソウルで行われた国際図書館連盟(IFLA)第72回大会に参加して様々な発表に接することで大変啓発されて帰ってきた。特に、健康・生物科学分科会で行われた次の発表に出会った管理人は興奮冷めやらぬ状態になっっていた。

Ontology based Adverse Event Reporting System Architecture / Senator Jeong & Hong-Gee Kim.
Presented in Health and Biosciences Libraries, World Library and Information Congress: 72ndIFLA General Conference and Council, 20-24 August 2006, Seoul, Korea

 Senator Jeongさんらはソウル大学の研究者であるが、この発表の内容は、医療活動上絶対に繰り返し起こしてはならない事柄のデータベースを構築しようとしている取り組みについての話である。患者の安全は医療者のみならず一般社会全体での重要な問題であるが、医療事故等の事例の報告システムの必要性が広く指摘されているにもかかわらず広く受け入れられているシステムがないという問題意識。そのような事例のデータベース構築の必要性。このデータベースに必要とされるデータ構造。それらのことが述べられている。

 ここまで読み進められた方の中には「失敗学」という言葉を思い出された方も多いことであろう。このテーマについては工学院大学教授畑村洋太郎さんの『図解雑学失敗学』(ナツメ社,2006)をはじめとしてさまざまな本が出ており、また、日本の独立行政法人科学技術情報機構(JST)では失敗学の考えをベースとした『失敗知識データベース』が構築されている。

 確かに上記Senator Jeongさんらのデータベースはプロトタイプ(試作段階)であり、今後広く議論を積み重ねていく必要があろう。また、研究者・専門図書館・公共図書館それぞれの現場で今後なすべきことは異なっているであろう。

 しかし、生き死にに関わる情報に図書館関係者がどのように関わっていくのかは、どの国でも重要な問題になっていくであろう。もちろん、私たちの国日本でも。そのような今、私たち図書館にかかわる者は、山ほどの課題はあるけれどもしっかりと前進していくことが必要である。 

2006.08.13

悲しい物語を繰り返さないために、図書館ができること

 読者の皆様、残暑お見舞い申し上げます。皆様の中には、休みにはご家族で海や川やプール、などという方もいらっしゃることでしょう。 そういう管理人も水泳が大好きなので、たまにプールで楽しんだりしています。

 でも、お盆が近いせいかもしれませんが、このように書き始めながら大変悲しくなることを思い出しました。埼玉県ふじみ野市で7月31日に起こったプールでの吸い込み事故です。ひとりの少女が10歳にもならずにこの世から去らなければならなかったこの事故のことは、まだ多くの方の記憶に残っていることでしょう。管理人もこの少女に対して冥福を祈りたいと思います。

 このプールの事故については、さまざまな続報があります。管理面も含め問題がいろいろとあったようです。図書館に関わるものとしては、そこからいろいろなことを汲み取らなければならないでしょう。その中で、今回はもっとも図書館に密接なこと、そう、「情報の提供」という切り口から語ってみたいと思います。管理人が新宿・紀伊国屋書店でふと目にしたのが次の本でした。

あぶないプール : 学校プールにご用心! / 有田一彦著. --
東京 : 三一書房, 1997.7
200p ; 18cm. -- (三一新書 ; 1167)
注記: 参考文献: p191-192
ISBN: 4380970116

 この本は、飛び込み事故につながるプールの水深の問題や、今回ような事故につながる排水口の問題、水質の問題など、重大な事故などにつながるプール管理の問題に対して警鐘を鳴らし、子供たちが健やかに泳ぎを楽しめるようににと書かれたものです。また、Webcatを検索してみていただければ、こんな本も見つけられることでしょう。

学校水泳プールのすべて:建設・管理・指導・事故対策/日本体育施設協会
学校水泳プール調査研究委員会編. --
東京:体育施設出版, 1985.5

水泳プールの安全管理マニュアル/水泳プール部会技術委員会編集. --
改訂第三版. --
東京:日本体育施設協会水泳プール部会, 2002.3印刷

 本だけではありません。国立国会図書館NDL-OPACにある『雑誌記事索引』を検索してみていただくと、そこには下記の記事をはじめとして有用な雑誌記事がいくらでも出てくることにお気づきのことと思います。

プールシーズン間近!ソフトとハードのオープン態勢を整えよう 
利用者が安全に楽しめるプール施設を提供するために--
シーズン突入前の点検・改善項目を把握し実行しよう / 池田勝利
月刊体育施設. 35(7) (通号 449) [2006.5]

 ブログ『CNET Japan』に「正常化の偏見」 という記事が載っていました。目の前に危険が迫ってくるまで、あるいは迫っているのに、その危険を認めようとしない人間の一般的な心理傾向を災害心理学では「正常化の偏見」と呼ぶのだそうです。必要なことは、今回のプール事故のみならず、常日頃から当事者の方々や管理者の方々を含め多くの人が安全ということにしっかりと関わっていくことなのだと思います。そのためには安全に関するさまざまな事柄を知る必要があります。そのような情報を知りたいというニーズを持つ人と、必要な情報とを結びつける場面では、図書館、そして司書もしっかりとお役に立てるのだと、管理人は確信しています。

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