東京の図書館をもっとよくする会
石原東京都知事は、10月20日定例記者会見で「外国でも日本でも身元がしっかりしていればオートマティックに本を借りられる。その本がいいか悪いかを司書に相談する読者はほとんどいないと思う。今の時代に人間を配置しなくとも、オートマティックに本が借りられればよい。選ぶのはその読者の感性だから、司書が指導することもないし、できたものでないし、そんな業務なかったと思う。図書館作業を人を雇ってするような時代ではない」と述べた。これは、「都立図書館司書は、採用がないため5年で半数の68人になる。20歳台の司書は一人もいない。こういった文化行政の衰弱はあまり好ましくないと思う。早急に採用の再開を」との記者の質問に答えたものである。
「東京の図書館をもっとよくする会」は都知事記者会見の1ヶ月ほど前の9月25日、都議会に「都立図書館の充実を求める陳情」を提出し、都立図書館のサービスを維持・拡充させるために必要な司書職員を採用することを求めた。また、図書館を支え発展させるために専門的知識を持つ司書の配置を求める活動を続けてきた。これらのことからも、今回の石原知事の発言についての考えを明らかにすべき立場にあると考え、会としての見解を表明する。
1.石原都知事の発言は、東京都が進めている図書館政策と大きく異なり、かつ都立図書館の現状とも余りにかけ離れている
都立図書館の中心的業務は、区市町村立図書館へのバックアップサービスと来館者等への専門的なレファレンスサービスである。2005年度の都立図書館の統計によれば、石原都知事が「相談する人はいない」としたレファレンスの回答は15万件を超えている。それがどのような仕事であるかは、都立図書館のホームページにある「レファレンス事例データベース」にその一端が掲載されている。
東京都は個人貸出しを都立図書館の役割ではないとして、「オートマティックに本を貸し出す」都立日比谷図書館の千代田区への移管を推進している。高度専門的なレファレンスに対応するために機能を強化する、個人貸出しは廃止する、区市町村へのバックアップサービスは縮小する、これがこの間東京都が進めてきた都立図書館政策であり、その計画の是非をめぐって都議会でも議論がなされてきたところでもある。石原都知事の発言は都の政策とも余りにかけ離れたものである。
また、司書が利用者の読む本を指導すると述べているのは、戦前の図書館が国策に協力するため思想善導として行っていたことを今も行っていると思っているようにも考えられる。これは図書館の死である。このようなことを二度と起こさせたくないと私たちは思っている。さらに言えば、権力による思想や信条にかかわる強制は決してあってはならないと考えている。
2.区市町村立図書館でもレファレンスは必要不可欠である
石原都知事の発言が誤りであることは、すでに述べたところで十分に明らかになっていると思う。しかし、知事の都立図書館像が司書を配置しない区立図書館のようにも考えられるし、貸出し中心の区市町村の図書館にはレファレンスの需要は少ないから司書は要らない、との声も根強くある。区市町村の図書館においても、簡単な案内も含めたレファレンスが必要不可欠であることを述べる。
オートマティックに本を借りられるのは、常に利用する分野のよく熟知した範囲の資料を利用する場合にのみ限られる。旅行ガイドブックをよく利用する人であっても、旅行英会話の本を借りようとした場合、それがどこにあるか分かる人は多くない。図書館をよく利用している人は、ある程度資料の配列など知っているし、また、利用者用端末機からも探し出すこともできるだろう。しかし、不確かであったり、自分の時間を節約しようとすれば、図書館員に聞いたほうが早く確実である。
映画に関する資料の棚でシナリオを探すが一つもない、料理の棚で栄養の本を探しても見つからないので図書館員に聞いて、文学-戯曲の書架や医学栄養学の書架を教えてもらう。このようにレファレンスとはいえない案内的なものでも、図書館員に相談することで、正確・迅速に目的を達成することができる。図書館を上手に使うには図書館員を活用しなければならない。
さらに、マンションの建て直しに関する法的なことを調べたい、地域の開発計画に関する資料を求めているが役所に聞きたくない、インターネットを利用したマーケッティングの現状を調べたい、文章の一部分から全体の文章と書名を知りたいので教えてほしい。このような課題の解決のためのレファレンスの相談が増えてきている。
人々が自ら必要とする情報・資料を入手し、相談もできるのは、それを役割として設置されている公共図書館以外には存在しない。世界的に、公共図書館がその利用を無料とし、税金による運営を原則とするのは、民主主義社会を維持発展させる上で、図書館の役割が不可欠と認識されているからである。
しかし、首都東京の現実の図書館を見ると、司書を採用し、図書館職員の養成に努力してきた多摩市部の図書館はレファレンス等の専門的なサービスを発展させたが、東京23区の図書館は司書を採用せず図書館員の養成を怠った。そのため、多額の税金を投入し、多くの図書館を建設したが、サービス水準は低く非効率な運営にならざるをえなかった。今日、東京23区では、図書館カウンター業務の民間会社への委託が広がり、民間会社の時給800円台のアルバイト社員を中心にした運営に変わってきている。それは、これまでの23区の図書館サービス水準をさらに低くした。「資料を問い合わせると奥の部屋に引っ込んだままになった」「岩波新書を知らない職員がいる」(毎日新聞6月7日 東京朝刊)ということさえ起きている。石原都知事の都立図書館発言は、このような区立図書館を彷彿とさせる。
民主主義社会は、自ら考え、判断し、行動する市民が存在しなければ崩壊する。そのためにも、地域の情報拠点となる図書館が絶対に必要であり、その設置運営は自治体の責務である。
私たちは、自治体が責任を果たしていない現状を少しでも変えたいと思う。私たちは、地域の情報拠点としての図書館の実現に向けて、引きつづき活動を進めることを表明する。
2006年11月22日
(注)10月20日の都知事定例記者会見は下記のページから読めます。皆様もどうぞ一度お読みください。
http://www.metro.tokyo.jp/GOVERNOR/KAIKEN/TEXT/2006/061020.htm
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